灰がこぼれたところから

最初から、自分でお香をつくろうと考えていたわけではなかった。

はじめにつくったのは、お香を焚くための木の器だった。

足踏みロクロで挽いた、ボウル。

そこに市販のインド香を立てて焚いてみると、燃えたあとの灰が器の外へこぼれてしまった。

お香専用につくったのに、これでは使いにくい。

器をもっと大きくするのか。

お香を短く折って使うのか。

灰がこぼれない形に変えるのか。

どうすればいいのかを考えているうちに、ふと、

この器に合うお香を、自分でつくるのは?

と思った。

そのとき、足踏みロクロで器を挽いたあとに出る、たくさんの削り屑が頭に浮かんだ。

一つの器をつくるために、木の多くの部分を削り落とす。

削り屑は制作するたびに出るが、それまでは捨てるのがほとんどだった。あとは、焚き付けに使うぐらい。

この削り屑からお香をつくることができたら、一つの木から器と香りの両方をつくることができる。

器をつくった木が、今度は煙になって立ち上っていく。

それは、いいなと思った。

また、その木が放つ香りも以前から気になっていた。

足踏みロクロで挽くための生木を、乾燥しないように真空パックで保管しており、

しばらく置いた袋を開けると、華やかで芳醇な香りがする。

その香りを、お香で再現できないかなと思った。

それは、なかなか思い通りにはいかなかったが、

条件を変えながら試作を続けていくうちに、

また違う魅力的な香りになった。

お香をつくろうと思った理由は、削り屑を生かしたかったからだけではない。

僕は、木でものをつくることを、自分の仕事として成立させたいと考えていた。

木の器は、長く使うものだ。

気に入った器を、何度も買い替える必要はない。

それは道具として、とてもいいことだと思う。

一方で、ものづくりを仕事として続けていくには、一度届けて終わるものだけでなく、その後も暮らしの中で使い続けてもらえるものが必要だとも感じていた。

火をつければ少しずつなくなり、また手に取ってもらえる可能性がある。

お香は、Earthbeatを続けていくための商品にもなると思った。

そして、もう一つ、

お香が、僕がEarthbeatを通して届けたいと思っていたものと重なったこと。
これが、僕にとって一番大切なところだと思う。

Earthbeatを始めたころから、ものをつくって届けるだけではなく、それをきっかけに、一度立ち止まって自分に戻るような時間を届けたいと思っていた。

でも、木の器をつくることと、その思いは、自分の中でまだ完全にはつながっていなかった。

そこに、お香のアイデアが現れた。

忙しい毎日の中で、お香に火をつける。

ほんの数分でも、流れていた時間が切り替わり、自分に目を向けるきっかけを届けられるんじゃないかと思った。

器からこぼれる灰をどうするか。

捨てていた削り屑を生かせないか。

ものづくりを、どうすれば仕事として続けられるのか。

そして自分が届けたいのは、どんな時間なのか。

それまで別々に考えていたことが、お香によって一つにつながっていった。

そのとき、自分の名前のことも思った。

芳樹。

「芳」は香り。

「樹」は木。

木の香りからものをつくろうとしている自分と、自分の名前まで重なって見えて、運命のようなものも感じた。

香りも、形も、つくり方も、実際に手を動かしながら少しずつ決めてきた。

最初から、今の形が見えていたわけではない。

始まりは、自分でつくった器から灰がこぼれたことだった。

目の前に起きた問題を、どうしたらいいのかを考えた。

自分が届けたいものに、削り屑のこと、木の香り、仕事として続けることが重なっていった。

自分の進みたい方向は、すぐには分からないかもしれない。

これまで心が動いたこと。

目の前にある小さな違和感。

現実の中で必要としていること。

自分が大切にしたいこと。

今はばらばらに感じるかもしれないが、それらと向き合っていく中で、つながることがある。

そして、そこから今まで見えていなかった景色が見え始める。

僕にとって、それらを一つにつないだのがお香だった。

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